【我らがマエストロ】

 さて、「見砂直照と東京キューバンボーイズ」でお馴染み、我らがマエストロ、見砂直照氏。
やはり私が知っている限りすべてのミュージシャンの中でも「ラテン音楽を愛している筆頭は?」と問われれば、1も2もなく、誰にはばかることなく見砂直照氏の名前を最初にあげる。
そのパワーたるや、晩年70数歳になっても衰えることなく、目が覚めて、また床につくまで一日中ラテン音楽を念頭におき、日々暮らしていた自身が狂のつく大のラテンファンであった。
特に、大昔(私が大昔というのだから、スゲーッ大昔である)日本にラテン音楽の情報が今のように入ってこなかった時代、ラテン楽器そのもを作り上げる作業を無の状態から始めなくてはならない。
コンガなど日本にあろうはずもなく、それを当時「桶屋」さんであった「K氏」とレコードの音を聞きながらなんの根拠もない想像だけで「こんな形じゃないかな?」と、作り出したコンガらしきものの音を出してみて、「いや違う。こういう音じゃない。今度はここをこう直して」と作り直す。 
 等々気の遠くなる試行錯誤の末作り上げたコンガが、『後年初めて日本にラテンバンドが来たときに持ってきたコンガを見て、寸分違っていなかった時には思わず涙が出たよ』この話だけでも小生、数十回聞かされているが、それでもいつも黙って最後まで聞かなくては失礼と思わせる情熱と説得力が、いつも輝いた目に光っていた。
ラテン音楽を語るときの彼の目は虫取り少年のそれと化し、つきることなく話し続けたものである。
 歴代偉大なミュージシャン、「ナット・キングコール」「ペレス・プラード」「コンパイ・セグンド」「ルーベン・ゴンザレス」「エリオ・レベ」「ティト・プエンテ」「イブライム・フェレール」「セリア・クルス」等々々、数え上げたらきりがない程歴史は深くなっているが、歴代偉大なミュージシャンが自己の音楽を語るとき、常にもつ共通したものは奥底まで輝く瞳のそれである。
 既に達観した境地に入った現役のミュージシャンも大勢おられるが、目を見ているだけでその音楽に引き込まれるようなミュージシャンこそ楽聖と言えるだろう。
それと、いまだに忘れられないのは、熱気である。曲のリハーサルをしているとき、曲アレンジのアイディアを出し合っているとき、演奏時の雰囲気について語るとき、マエストロ(見砂直照氏)は常に熱い。マエストロが語り出したその場の温度は、実際に上がっていたに違いない。
マエストロと話をしていたバンドメンバーが、そこいら中を火傷していたのは今も記憶に新しい。
このとき開発されたのが「バンドエイド」であるというのは、私の作り話である。

2006.12