【ミュージシャンの内面戦争】

まず人間には本能的に人に負けたくない、自分の方が優れていると思う習性が無意識下に備わっている。 ミュージシャンのように善し悪し、勝ち負けがハッキリと形に出てこない仕事は、自分で勝ったと思い込むか、あるいは第三者がどう認めるかだが、ほとんどの場合が、好みの差が出る程度で本来は大した問題ではない。
が、その大した差でない差をこだわるのが、これまたミュージシャンの価値であり向上の元である。 良く言えばその向上の元の為に自分の中で一生懸命勝ち負けにこだわり続け、独特の音色を探し続け、フレーズを模索し続ける。 興味のない人にはとてもつまらない努力だが、ミュージシャンはこれがまた堪らない楽しさで、それゆえに他の仕事と比べ、修行中の食えない時代にも「悲壮感」というものはない。 本人達はとても楽しんでいる。
その努力を続けることによって、ごく稀にとても新しいサウンドとフレーズが出来上がる時があり、それが出来たとき、後日、仲間達と話をしている最中も内心で「俺、お前達より一歩抜き出たぜ」と誰も判定してない事を勝手に一人悦にいる自分がある。
暫くこの新しいサウンドとフレーズを楽しむが、更に新しいサウンドとフレーズを求め、一人、努力を楽しむ。
ミュージシャンは自分一人だけが努力をしている訳ではなく、とても、とても稀に、他人が新しいサウンドとフレーズをひけらかす時がある。 内心「あっこの野郎かっこいい事しやがって」と思いつつ「イェー」などと言い、そのプレーヤーを認めた素振りをみせつつ、自宅に帰り地団駄を踏んで悔しがり、さらに新しいサウンドとフレーズを自分の持ちネタとするべく努力を重ね、やがて出来上がった新しいサウンドとフレーズを自分もひけらかす。
他人が少しでも「ナベさん、さっきのフレーズかっこいいよね」なんて言おうものなら「こいつ昔から性格が良い、感じのいい奴だよな」と一気にそいつが好きになり「まだ、もう一つタイミングが決まりきらないんだよなー」なんて照れ隠し(まだまだ一杯新しいのあるもんね)と後頭部が後ろに付きそうなくらい優越感に酔った上で「こういうのやってみな」と昔作った新しいフレーズを教えたりする。 ・・・とても面白い商売である。

次回乞うご期待。

2004.02